ダマスクローズ・フェスティバル

特殊枠と合流の後、夫婦の情報を得る為にナゾトキをする話

前編視点…エリュー=トゥリアンダフィロ


無機質で真っ白な空間。

部屋を包む薬品が混ざりあったあの独特な匂い、デスクには大量の書類に薬品に毒薬、試験管、ビーカー、ガスバーナー、その他ありとあらゆる実験器具…。

今日も今日とて、私は研究室に缶詰になっていた。

明け方から今までずっと実験と向き合っていたが、どうもうまくいかない。

どうしたものか、このまま続けるか?それとも休憩を取るべきか?

否、こういう時は…


「…少し休憩を取った方が良さそうだな。」


軽く背伸びをして立ち上がった次の瞬間 タイミングが良いのか悪いのか分からんが コンコン、と扉をノックする音が聞こえた。

ノックの癖から察するにどうやらノック音の主は私の仲間達の誰かではないようだ。


「…誰だ、何用だ。」


不機嫌だが私はノック音に反応すると、ノックした主は外から私に向かって声をかける。


「やぁ、エリュー君。こんにちは、研究の調子はどうかな?ちょっと君に用があってね?開けてもらえると助かるんだけどな?」


…"アレ"だ。

コーヒーでも作って一息つこうとしていたが、呼んでもないのにやってきた"アレ"のせいで一気にそんな気分ではなくなった。

しかし、部屋に入れないとドアを破壊してでも入られる可能性は否定出来ない。

何ならドアを無視していきなり背後から現れる可能性もなくはない。

…仕方ない。

渋々、部屋に招き入れると相変わらず胡散臭い笑顔を浮かべながら部屋に入ってきた。

興味深そうに研究室を見回し、何も言ってないのに勝手に椅子に腰掛けやがった。


「へー!初めて君の研究室に入ったけど君らしい良い部屋だね!良いんじゃないかな!」


「…そんな褒める気もない世辞を吐いてないでさっさと用件を話せ。貴様の話に付き合う程私も暇じゃないんだ。」


本音はアレとは1秒たりとも話したくないのは言うまでもない。

が、今は口には出さないでおこう。

私の気持ちなり表情なりを何となく汲み取ったのか何だか知らんが、アレはようやくここに来た訳を語りだした。


「そうだね!じゃ、話そうか!この季節になるとね、ジオンモナンはあるお祭りが開かれるんだ。…ダマスクローズ・フェスティバル。君もジオンモナンの薔薇なら意図してなくても、何回か聞いたことがあるだろう?ダマスクローズ・フェスティバルの事は。」


「…無論。」


ダマスクローズ・フェスティバル

2万は優に越える薔薇の中から世界三大美女でもあるクレオパトラが1番愛した通称 女王の薔薇、それがダマスクローズ。

古くから人々に香りや姿を魅了され続け、ハーブティーやジャムとしての食料として、ローズオイルやフレグランス等の天然物の香料等美容として、あらゆる物になりこの地を支えてきたといっても過言ではないであろうダマスクローズに感謝する祭りの事。

祭りの準備期間でも様々な屋台が大都市にずらりと並び観光客を賑わせる、開催期間中は早朝、薔薇摘みを行ってから参加者全員が色とりどりの民族衣装を着て踊り、夜になるとダンスパーティーやパレードが開かれる。

といったところだろうか。


「…で、その祭りがなんだ?そこに夫婦の情報でも転がるのか?」


この私に祭りに来た人間と交流してこい等と巫山戯た事を抜かしたら早々に追い出すとしようか。


「まぁあのお祭りは世界各国から色んな人が集まるからその目的もそうなんだけどね。別に違う目的があるのさ、実は僕だけじゃ君達の面倒を見るのが大変になってきてね?昔からの知り合いをこのフェスティバルの会場に集合って形で呼んだんだ。ただ残念なことに僕は当日予定が入って迎えにいけなくなっちゃってどうしたものかと思ったら君達の事を思い出して!君達に知り合いを迎えにいって貰えたら嬉しいな〜って!」


…それが私の貴重な研究の時間を潰してでもやる事だろうか?

この旅はあくまで夫婦を探す旅であって、アレの世話を焼くために私は人間として生まれたはずではないのだが。

こうやって考えている時間が正直な所バカらしくなってきた。

きっと、コイツの腹の中はどう足掻いても私では読めない。

適当に切り上げて、休憩に入らせて頂こうか。


「バカ抜かせ。予定をキャンセルしてでも貴様が行けばいいだろう。」


アレは私の言葉を想定していたのか、気になる言葉を口に出す。


「船…」


「は?」


アレは開いた口が塞がらなくなった私を他所に、話を続ける。


「そろそろ君も気付いているだろう?この周辺に夫婦はいない事にさ。だったら別の地方に出向く他ない。しかし別の地方に行くには列車や観光船ではまず行けないんだ、海には並の人間じゃ太刀打ち出来ない魔物が沢山いるからね。だったら船を作ればいい話なんだろうけど生憎僕は観光船以外の旅をするように動かせる船は本の中でしか見たことがないから作れなくてね、彼らなら知ってるだろうからもしかしたら作ってもらえるかもよ?」


…なんだ、そういう事か。

それなら、早く最初に言えばよかったものを。

貴様は本当に回りくどい言い方をするな。

意味がない出迎えなんて願い下げだったが、夫婦探しの手がかりになる物が手に入るなら話は別だ。

やってやらん事でもない。

しかし、こういう話を何故私に持ち掛けたのが気になる。

何故か、私は"アイツ"を除いて自分から仲間と進んで交流してくる事が全く持ってないからだ。

気になったから、口に出してみる。


「…そもそも、何故私に。頼み事なら他に適任がいるだろうが。」


まるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたかと思ったら、すぐに憎たらしい笑みに戻し私に告げる。


「やだなぁ!僕は君が進んで人と交流しないからこのような機会を作ったまでさ!君はセアリアス君以外にも少し人と交流をしたほうが僕は良いと思うんだけどね?」


…この相手を心配してる素振りと見せかけて煽るような発言はなんなんだろうか。

心底腹立たしい以外の言葉がまるで見当たらない。

早々にお引き取り願おうか。


「……話はそれだけか?余計なお世話だ、用が済んだならさっさと帰ってくれ。今日はもう貴様の顔なんぞ1秒でも見たくないし話したくもないんだが。」


と、吐き捨てると腕を掴み"アレ"をさっさと部屋から追い出した。

追い出す時、何か言いかけていた気がするが気にしない事にする。

でもこれでようやく休憩が出来る訳だ。

深くため息をついて私は冷蔵庫からケーキを取り出しデスクに置くと、棚にしまっているドリップバッグとコーヒーカップを手に取った。


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あれから約2週間後。

場所は変わってここは大都市メヘルヤム。

街を赤く彩っていた楓はほとんど地面に落ちてしまった。

心做しか肌に当たる風が冷たく、寒く感じる。

それもそのはず街の住民のほとんどの人は暖かな服装に衣替えを始めていた。

通りで冷える訳だ。

さっさと研究室に帰って実験の続きをしたい。


「…と言う訳だ。では、私は研究室に戻る。」


セアリに頼み仲間全員をこの場所に掻き集め、アレから言われた事は全て伝えると私は研究室に戻ろうとした。

が、弟子…カメリアに引き止められた。


「待って、先生!先生も僕達と一緒にその知り合い?を探そうよ〜!ダメ〜…?」


まるでお強請りする幼子のように目を潤ませて私の白衣の袖を引っ張ってくるが、そんなの知ったことでない。

カメリアの手を振り払い、後ろに向き直すとそのまま歩を進める。


「…そもそもアレの知り合いだろうと私は興味ないからな。」


本音は、最初は協力する気だったが"あんな事"言われた手前で協力するのがアホらしく感じてきたからだ。

好きにすればいい、私はやる気が失せたから探そうなんて気は毛頭ない。

が、そんな場面で協力を拒む事を許さなかったのか駄犬が間に割り込み、私の腕を掴んできた。


「待て、今後の事を考えたら自由に動かせる船は欲しいだろう!?なら私達と共に行動するべきだ、君にだってやるべきことは探せばいくらだってあるんだ。」


本来なら聞いてやるが、今の私は機嫌が宜しくないので断る。


「断る。行きたきゃ貴様だけで」


「エリュー!!」


「おい、私の話を…」


「ダメだ!!これは仲間と協力すべき案件だ、こんな広い会場で仮に見つからなかったらどうする!!閉じこもってはいられないだろう!行こう!!」


「おい」


「君がYesと言うまで私は君に付き纏うからな!?!」


…こうなってしまうと、何が何でも本当にはい、と言うまで付き纏われるのは私がよく知っているはずだ。

"アレ"はそこまで想定して私にこの話を持ちかけたのかと思うと、苛立ちが抑えられないが仕方ない、腹を括ろうか。


「……あぁあ〜…もう…分かった、分かった!!!分かったから…行動する。但し条件付きだ。セアリ、貴様は私とだけで行動をしろ、いいな?」


そう告げると、駄犬…もといセアリは ぱぁ、と顔を輝かせると私の手を取り…


「はは!勿論だとも!では行こうか!じゃあ皆、また後でな!」


会場の奥へと進んでいく。

…こんなに人が多いと探し当てるのに苦労しそうだ。

こんな人だ、と聞くのを忘れてしまった為この会場内でそれらしき人物を当てずっぽうに探す他ないのだ。

ふぅ、と溜め息をつき隣を向くといるはずのセアリがいなく、辺りを見渡してみるとずらりと並ぶ屋台の前にそれはいた。


「おー!準備期間でも屋台があるんだな!エリュー、あれ半分にして食べてみないか?!美味しそうだ!」


…先が思いやられてきたな。

まぁ、今に始まったことではないがな。

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親愛なる同期達へ


やぁ、こんにちは。元気にしてるかい?

僕だよ、ジャックだ。ジャクリーヌ・スキュア=オーバラライデン。

こうやって手紙を書くのも久し振り過ぎるというか何というか、昔の顔馴染み相手に今更何を書けばいいのか分からないんだよね。

だから簡潔に言いたい事だけ書くよ。

ちょっとある長期的な依頼が舞い込んできてさ、なんやかんやで僕は12人の薔薇人間を作り出して彼らのサポート役になってる訳なんだけどこれがまた相当個性のあるメンツばかりでね?

僕だけじゃ面倒が見切れなくなってきたから君達の力を借りたいんだ、頼めるかな?

もし、快く了承してくれるなら僕の指定した所で待ち合わせしようか。

場所はジオンモナンの大都市メヘルヤム。

日付はダマスクローズ・フェスティバルの準備期間の初日に来てくれると助かるかな。

じゃあ、久々の再会を楽しみに待っているよ。


追伸

僕は当日用事があってすぐには行けないから、まず先にその薔薇人間達を会場に行かせるからね。

合流したら、彼らとちょっとでも仲良くしてくれると僕はとても頼もしいよ。

これからしばらくの間は彼らのサポート役として僕と行動してほしいからね、ちょっとでも交流して損はないんじゃないかなと思うよ。

といっても、一癖も二癖もある彼らを手懐けられるのは僕でも骨が折れるから本当に親しくなれるのはどうかはこの僕でも分からない。

…話が過ぎてしまったね。

それじゃあ、後で会場でね。


真心を込めて ジャクリーヌ・スキュア=オーバラライデン


ダマスクローズ・フェスティバル前編 終


後編視点…グレイス・アエテルニタス


「正解は、マカロンですね?」


貴婦人様の目を真っ直ぐ見て、ナゾトキの答えを告げる。

貴婦人様はとても満足そうにクスクスと笑うと、私の手をそっと、優しく包み込むように握った。


「えぇ、えぇ!大正解!おめでとう。全てのナゾトキを解いてしまうなんて!流石ですわ、ミス・グレイス。私の完敗です。」


…勝った。

一時はどうなるかと思っていたけれど、どうやら全てのナゾトキを解けたようでホッ、と安堵する。

これでご夫婦の情報が、もしかしたら入手出来る訳だ。

一か八か…さぁ、どうなるか。


「さぁ、ミス・グレイス。ご褒美として、貴方が欲しい物は情報でもお金でも何でも授けましょう。さぁ、欲しい物は何かしら?」


「ありがとうございます、貴婦人様。実は私達、アッシュとビアンカという夫婦を探しているんです。この2人がどこに行かれたか、ご存知ないですか?」


私は以前、ジャック様から譲って頂いた夫婦の写真を貴婦人様へ渡す。

貴婦人様はまじまじと受け取った写真を見つめ、えっ、と驚いた後 私に視線を戻した。


「…もしかして黒い髪で紫色の瞳の青年と、白い髪の赤い瞳の女性の夫婦かしら?」


「はい!その2人です!もしかして、何処に行かれたのかご存知なんですか!?」


「えぇ、知ってるわ!とても印象に残ってるもの。奥様が旦那さんの腕にしがみついて絶対に離れるまいとしていたもの!旦那さんもそんな奥様で愛しいのでしょうね〜!ずっとニコニコしていらっしゃったわ!」


「…!はぁ…そう、なんですか…。」


私はますます気になってしまう。

どうして自分たちの家族や友人を心配させてまで置き手紙と私達ダーズンローズを残し、家から忽然といなくなってしまったのか。

話を聞く限り夫婦仲が悪くなってしまった様な気はしないし、第三者が絡む揉め事があった様子も全くない。

とても、気がかりで仕方ない。

奥様達に早く会って真相を聞かないと。


「あ、あぁ!ごめんなさいね!決して暗い気持ちにさせたいとかそういう訳じゃないのよ!?許して頂戴?…えっと、場所はね、ロザヴァナって言ってたかしら。1年中、桜が咲き乱れる美しい和の国なのよ。地図でいうと大体この辺りかしら?ここに行くには列車は使えないし、飛行機もないし、船も海に強い魔物がいるせいで開通していないからどうやって行ったかは私も分からないんだけど…。」


ロザヴァナ、桜、和…どれもこの辺りでは聞き慣れない単語だ。

後で、ジャック様達にどんな国なのか聞いてみよう。


「それだけ聞ければ十分です!ありがとうございます、貴婦人様。これでようやくご夫婦探しへ旅への第一歩となります。」


私は貴婦人様へ向かい、深々とお辞儀をした。


「では、私達はこの辺で失礼致します。またどこかでお会いしましょう。今夜は、ありがとうございました。」


貴婦人様にお礼を述べ 私達は会場を後にした。

貴婦人はその場で軽く手を振り私達を見送った後 少し間を開け あっ…と声を出す。


「…あっ…あの子達に言い忘れてしまった事があったわ…どうしましょう…この後は舞踏会のお片付けがあるからここを離れるわけにも行きませんし…。…もし、またあの子達に会えたときにお話しましょうか。」


_…夫婦の様子にどこか違和感があった事を。

その言葉を聞く前に、私達は会場を後にしてしまっていた。

その言葉をあの時もう少しあの場所に留まり聞いておけば良かったと後悔するか、それとも敢えて聞かなくて良かったと思えるのか。

どちらの展開に転がっても後の祭り、先へ進むしかない。

そう思う他なかった。


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「ふぅ…」


会場から出た後、近くのレンタル衣装店で借りていた服を返却し さっさといつもの服に着替えた。

舞踏会は女性はドレス厳守とはルール上あったものの、背中の紋章を見られたくない等 色々と事情があるので貴婦人様やジャック様に事情を話し 特別にスーツを着させて貰っていた。


やはりいつものこの服が体によく馴染む、落ち着くなぁ。

さて、着替え終わったなら早く仲間達と合流しないと。

レンタル衣装店を出て、仲間達と合流すべく辺りをキョロキョロと見渡していると 後ろで誰かが私を呼んだ。


「グレイスさん!」


とても聞き慣れた声がした。

振り返ると、フォソル様がニコニコとした笑みを浮かべて手を振っていた。


「フォソル様!」


慌ててフォソル様の元へ駆け寄る。

もしかして、私を待っていてくれたのだろうか?

なんて、考えているとフォソル様が興奮混じりで いきなり私の両手を握ってきた。


「フォソル様!?」


「流石グレイスさんですね!自分もナゾトキは中々解けなくて苦労したんですよ…でも皆さんあんなに難しいナゾトキをぱぱっと解いてしまうなんて!自分も皆さんを見習わないといけませんね!」


「え、あ…フォソル様、あの…」


突然の出来事に慌てていると、仲間達以外の人の気配を感じた。

視線を移すと、真顔でこちらを見ている少女とニヤニヤとしながら少女を見ている青年がいた。

ニュロ様とオロニ様だ。


「若いって良いね。」


「す、すいません…。」


慌ててフォソル様と距離を取った。


「お前達、こんな夜更けまでお疲れ様です♡」


オロニ様は私達の方に視線を移し、ニコニコとした笑みを浮かべる。

ここで私は違和感を感じた。

そう、ここにいるはずの人物がいない。

どうしても気になってしまい、毛先をくるくると指に絡ませているニュロ様に聞いてみる。


「あの、ニュロ様…差し支えなければお聞きしたいのですがジャック様はどちらへ?」


あー…とニュロ様は少し考えた素振りをして、私達にこう伝える。


「ジャックなら、君達の報告を聞いたらちょっと用事が出来たとか言って先に帰ったよ。」


「そうですか…。」


「と言う訳だから、ん…?…!」


何かを言いかけた所で、懐に手を入れ何かを漁り始めた。

会場に忘れ物でもしたのだろうか?


「おや、ニュロ。どうしたんです?」


オロニ様は、ニュロ様の顔を覗き込む。

ニュロ様は懐からしわくちゃの紙切れを取り出し、オロニ様に見せた。


「オロニ…これ見て。」


「どれどれ…あー……なるほど♪」


やはり、忘れ物だろうか?


「お二方、どうされました?」


お2人はこちらに視線を直す。

コホン、とニュロ様は咳払いをする。

そして…


「…君達は先にホテルに戻ってくれ、私とオロニは少し用があるからな。」


「え?何かあったんですか?お手伝い出来ることがあれば…」


と、言いかけた所でニュロ様は首を横に振った。


「君は何も気にしなくていい。」


「えぇ、ニュロの言う通りお前達は気にしなくて良いですよ♡これはわたくし達だけの問題なので♪では、今日はこれで失礼しますね。おやすみなさいませ♡」


それだけ言うと、2人はこの場を後にしてしまった。

何か悪い事でもあったのだろうか?

いずれにせよ、2人はいなくなってしまったので話を聞く事は今日はもう出来そうにないが。


「今日は体も頭も沢山使ったし、もう夜だから眠いよぉ…」


ふわぁ、と欠伸をして目を擦るエルピス様。

今は何時だろうかと、腕時計を見てみると丁度日付が変わる時間だったようだ。

15歳の子はこんな時間まで起きているのは中々難しいだろうし、ましてやナゾトキや舞踏会で頭や体を沢山使ったのだ。

疲れて眠くなるのも無理はないだろう。


「オランジュお姉ちゃん、抱っこして…」


エルピス様は近くにいたオランジュ様にしがみついた。

オランジュ様はやれやれ、といった感じでエルピス様をひょい、と抱っこした。


「仕方ありませんね…」


オランジュ様は幼子をあやすようにエルピス様の背中を優しくぽんぽんと叩きながら、歩き出した。

他の仲間達も頭と体を沢山使ったのもあり、今日はもう休もうと各々ホテルへと向かっていった。

私もホテルへ行ってお風呂に入って汗を流したい。

そう考えていると、フォソル様は私の顔をじっと見つめていた。


「フォソル様?どうされました?」


体が冷えたのだろうか?

フォソル様の顔を覗き込むともじもじと手を弄ったと思ったら、照れ臭そうに私の目の前に手を差し伸べる。


「グレイスさん。その…手、繋ぎませんか?今夜は少し冷えますからね。」


「えっ…」


思わぬ言葉に少々戸惑ってしまった。

一見すると主従関係にしか見えない私達だが その…恋仲としてもお付き合いをしているのだから手を繋ぐくらいなんだって事ないはずなのにいざ口に出されると慣れてないので驚いてしまう。

そんな事を考えていると、察したのかフォソル様の手が下がる。


「あ、嫌ですか?」


…しょんぼりと落ち込むフォソル様を前に断らずにはいられなかった。


「い、いえ!そんな事はありませんよ…。私で良ければ…。」


おずおずと手を差し出すと、フォソル様はまるで子犬のように嬉しそうに微笑むと、ぎゅっと私の手を握った。


「じゃ、帰りましょうか!グレイスさん。」


「はい…。」


この後、緊張で何を話してホテルへ向かったか正直覚えていない。

でも、とても楽しくて 真冬の夜なのに体も心も暖かく満たされた事だけは覚えていた。


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「…やっと終わったと思って懐を見たらジャックからの呼び出しの手紙だよ。はぁ…こんな遅くまであの子達の面倒見ていて疲れたんだから、手短に済ませてほしいね。」


「まぁまぁ、そんなお固い事仰らずに♪さて、ジャックが言ってた場所はここで合ってますかね?随分と年季の入った一軒家のようですが…。」


「だろうね。…ジャック、私達だ。」


「…やぁ2人共、いらっしゃい。待ってたよ。まずは労いの言葉でも送ろうか、こんな夜中まであの子達のサポート、お疲れ様。」


「…で?わざわざこんな場所に呼んだからには何か理由があるんだろう、ジャック?」


「流石ニュロだね!正解だ。まぁ立ってるのもあれだし2人共、座っておくれよ。長らく入居人がいない空き家を一時的に借りたからちょっと埃っぽいのはごめんだけどさ。」


「……。」


「さて、2人共ナゾトキと舞踏会が終わったばかりで疲れているところ、大変申し訳ないんだけど…明日からで良いから船造りを手伝ってくれないかな。あ、船といっても観光船じゃなくて魔物に襲われてもビクともしない旅向きの頑丈な船なんだけど。僕は本の中でしか見たことないから作れなくてね、2人なら知ってるだろうと思って。どうかな?」


「…旅向きの自家用の船、出来ない事はない。」


「えぇ、お前の頼みなら喜んで叶えて差し上げましょう♡どんな船にしましょうか♡?」


「ありがとう2人共、魔物に襲われないように頑丈にするのはいいとして、問題は大きさと形とデザインだね。万が一の事も想定して、最大20人から30人くらいは乗れるような大きさにしたいと思うんだけど魔力は足りそう?大丈夫かい?」


「まぁ1人ならまだしも、私達3人の魔力なら大丈夫だと思うよ。」


「えぇ、今のわたくし達に出来ない事なんてほとんどないと思いますよ♪?」


「……はは。」


「…何、ジャック。何がおかしいの。」


「…いや、昔みたいだなぁって。こうやって3人で何かするのはあの時以来じゃないかな。」


「あー…。」


「そうですね、あの日以来お前達とは面と向かって会っていませんし…ジャックが手紙でわたくし達を呼ばなかったらこうやって会ってなかったでしょうしね♪」


「ニュロが☓☓☓☓☓☓☓☓って☓☓を僕らに☓☓☓☓☓☓☓☓、僕は2人より☓☓も☓☓も何もかも☓☓☓☓☓☓2人に☓☓☓☓だから☓☓☓を☓☓☓☓、兄さんは☓よりも☓☓して☓☓☓をしていて☓☓☓☓☓☓……☓☓☓も結構あったけど、それでも☓☓☓は☓☓がキラキラした宝石みたいでとても楽しかった。兄さん達が☓☓☓☓に不満を抱いていたかは置いといてね、僕は☓☓☓☓が☓☓☓だったよ。」


「…その話はやめた方がいい。そんな嬉々と話した所で☓☓☓☓はもう二度と戻ってこないぞ、ジャック。」


「ニュロ!いけませんよ、そんな口を聞いては!」


「……確かにそれもそうだね。今はこっちに集中しようか。でもね、僕は会えなかった間に起きた事とかあの事とか…とにかく、ニュロと兄さんと話したい事が山程あるんだ。またどこかで昔の話でもしよう、お茶でも飲みながらさ。」


「…気が向いたらね。」


「わたくしは構いませんよ♪お前の気が済むまでとことんお付き合いしましょう♡」


ダマスクローズ・フェスティバル 後編 終


良ければナゾトキを振り返ってみませんか?

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