ブラッドパピヨン・クランクハイト

血漿変蝶症に感染した仲間を助ける話

船に揺られて着いたここは砂漠の地、 ザンスズィア。


いつもならここは現地の人が熱く歓迎してくれるのだが今日はとても静かだ。

それはまるで人がここに住んでいないのかと錯覚するほど、気味が悪いくらいに。


夫婦の情報を集め始めようと船から降りるとダーズンローズ達の周りを赤い蝶が飛び交う。


綺麗だねぇ、と蝶と戯れるダーズンローズ達の横でニュロはふと疑問を抱く。


…あれ?おかしいな、 前にここに来た時は赤い蝶なんていなかったのに。

 なんて、考えていると赤い蝶は数人の仲間たちの手や足、首に群がったかと思うとなんといきなり皮膚に口 を突き刺し血を吸い始めたのだ。


すぐに追い払い事なきを得るが、 特に刺された箇所は痒みも炎症も起きることはなく至って大丈夫かのように見えた。


そう今は、だ。

異変が起きたのはその日の夜だった。 

皆が寝静まった頃、 赤い蝶の事を独自に調べていた同期達はダーズンローズ達の悲鳴が耳に入り何事かと 部屋に駆け付ける。


そこには体の至る所から艶やかな蝶を出しながら蹲るダーズンローズ達が数名いた。 

…なるほど、どうやらこの赤い蝶に刺されると昆虫由来の奇妙な感染症に陥る。

だから街の人は赤い蝶に刺されないように屋内に籠もってしまっているのか。


「…どうやら、 何人か赤い蝶に魅入られてしまったようだ。また厄介事が出来たね。 」

こうしてまた夫婦探しの旅は、 足止めを食らうのでした…。


視点…ハニーベル


「ふぅ…これで癒花と地楡、合わせて110本全てでしょうか…?」


私達はある時は魔物に襲われ、ある時は熱中症により何度か死亡し、またある時は落石や濃霧、赤い蝶の襲撃により怪我を負いつつ避けられない戦闘をしつつも、50本の癒花と60本の地楡、両方合わせて110本全てを取ってくる事に成功したのです。

受付のお嬢様に改めて渡した癒花と地楡の本数を数えて頂き、全て揃っている事を確認するとにこり、と微笑み丁寧に頭を下げられました。


「ありがとうございます!110本 丁度、確認致しました。では薬の調合を行いますので、空いているお席に座ってしばらくお待ち下さい。」


よいしょ、と癒花と地楡を抱えると受付のお嬢様は奥に消えていった。

ぐるりと辺りを見渡し開いている席を確認してから席に座り、ふぅ…と一息つく。

標高差1000メートルもある崖の花を自らが転落する覚悟で取ったり、体中の水分が奪われそうになるくらいとても暑い所に咲かせる花を取ったり…いくらこの命がけの旅に少し慣れてきたとはいえ私でも少し疲れてしまったのです。

ぼーっと天井を眺めているとハァイ♪、と明るい声が聞こえてきました。

この声はエムロード様です。

エムロード様は私の隣に座ると、ニコニコしながら私に話しかけてきましたです。


「お疲れ様、ハニーちゃん♪やっと一段落して休んでいる所をお邪魔しちゃってごめんなさいね?」


「エムロード様!お疲れ様なのです…!」


まるで旅の疲れを感じさせないくらい元気に接してきたエムロード様は、私の顔を見て一気に気が抜けたのか はぁ〜と大きな溜息をつきながら私にお話してきました。


「流石にあんなと〜っても高い崖に咲いている花を取ってきたり、あつーい砂漠で花を取ってきたり…あーしでも骨が折れちゃったわ!でも、もっと大変な思いをしているのは病気になっちゃった仲間の方だもの、何も言えないわね。」


しょんぼり、と落ち込む素振りをするエムロード様に私は励ますように声をかけます。


「そんな事ないのです!エムロード様はとても頑張っていたのです!だから、そんなに落ち込まないでほしいのです!」


エムロード様の手をそっと優しく握って励ましました。

今の私には多分これくらいしか出来ないと思うのです。


「ハニーちゃん…」


エムロード様は先程までの憂鬱さを振り払い、笑顔で私の手を握り返してくれました。


「ハニーちゃん、あーし貴方にお願いがあるの。ジャック達の元に帰ったら貴方とお茶がしたいわ。ね、良いでしょ?貴方の淹れてくれたお茶を飲んだら私、またいつものような元気が出てきそうだから。」


「…はい!お任せ下さいなのです!」


彼の元気が戻って良かったのです!

やはり、彼は悲しそうな顔より笑っている顔の方が私は好きなのです。

なんてことない話をしていますと、どこからか誰かの視線を感じました。

目線を視線が感じる先に移してみると、受付のお嬢様が気まずそうに私達を見てきました。


「あ、あの…お客様…お話の途中失礼します…」


私は慌ててエムロード様の手を離しました。


「は、はい!なんでしょう!?」


あはは…とお嬢様は苦笑いを浮かべてお話を始めます。


「お薬が出来ました、どうぞ。こちらを感染者全員に渡して飲ませて下さい。きっと元気になりますよ。」


「はい!ありがとうございます、なのです!」


これでひとまずお薬の方は安心なのです。

後はお父様達の所へ戻るだけなのです。


「よし、用事が済んだから早くあいつらのいる所に帰るか。」


黒薔薇様は薬を抱えると、白薔薇様と一緒に一足先に早く病院を出ました。

その後も薬を荷物と纏めた順に紫薔薇様、橙薔薇様、金薔薇様…と仲間達がぞくぞくと病院を出ます。

エムロード様も荷物と一緒に薬をまとめると、また私に話しかけてきてくれました。


「さ、帰りましょっか!ハニーちゃん!船まで競争よ!」


エムロード様が駆け足で出口に向かっていき、慌てて私も急いで彼の後を追います。


「ま、待って下さいなのです!エムロード様〜!んしょっ…!」


私もエムロード様を追いかけるように病院を出て、街を出て…船に着く頃には息も絶え絶えでした。

しかし休みのはまだ早いのです。

早くお父様や仲間達の所に行かないと、なのです!

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「…時は来た、後は奴らがここに来るのを待つだけ。あいつらは良いとして、俺が誰かに見られずここまで来るのに苦労したぜ、ったく。」


ここは、ライゼスダフォル。

ジオンモナンの北西に位置する かつて罪人達の処刑場、または流刑地として使われていた国。

今は死刑制度そのものがこの大陸では廃止された為、荒れ果てた土地となっている。

そこに人間が3人いる。

1人は灰色の髪に青い瞳を持つ男。

もう1人は黒い髪に紫の瞳を持つ青年、そして白い髪に赤い瞳を持つ女性…紛れもなくダーズンローズ達が探していた夫婦がそこにいた。

ギッ…と男を睨むアーテルと顔を手で覆い赤く大きな瞳から大粒の涙を流し嗚咽を漏らしながら泣くビアンカもいた。


「幼い頃からの決められた約束を自分勝手な我儘を貫いて勝手に破り、俺の顔に泥を塗りたくったあの女も、俺からあの女を奪っておきながら俺と仲良くなりたいとほざきやがるあの泥棒ネズミの能無し男も。全部、全部全部全部全部…許さねぇ。」


男はアーテルとビアンカの結婚式の様子を映した写真、顔は見えないが長い茶髪の青年であろう写真 合わせて2枚の写真を持っていたライターで火を付け、跡形もなく燃やしてしまった。

写真だったものをぐしゃりと握り潰し、パラパラと空中に放ちながら捨てた後 ガリガリ、と男は爪を齧る。


「まぁ良い。お前らを徹底的に潰すための舞台は整った。さぁ、ダーズンローズ。早くこちらへ来い。俺と楽しもうぜ。」


地を這うような男の声の周りの空気を、ふわりと甘ったるい香りが漂う。


『…これ以上…悲劇を…生み出しては…ならない…止めないと…早く…止めないと…また…あの子達が…救われない…』


後ろから声が聞こえたような気がした男は後ろを振り向いた。

しかし誰もいない。

なんだ、空耳か。

男は正面に向き直し、体を夜風に当てる。

アーテルは必死に泣きじゃくるビアンカを宥めている。

一体夫婦はこの男に何をされているのか、今はまだ分からない。

きっと、近々分かるかもしれない。

あまり良くない事なのは確かだが。

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場所が変わり、ここは医療室です。

血漿変蝶症に倒れていたお三方は、手に入れた治療薬を飲むとみるみる体調や傷が回復しすっかり元気な姿を取り戻しました。

お父様が検査した所、3名とも感染による後遺症もないようです。

皆で手分けして街の人にもお薬をお配りしたり街に飛び交う赤い蝶を全て討伐した為、これで街の人達が赤い蝶や血漿変蝶症に怯える事もなくなりそうです。

そしてとても幸運な事にお薬をお配りしている途中、街の人から奥様と旦那様がどこにいるのか情報も手に入れられました。

どうやら、既にザンスズィアからは離れたようでライゼスダフォルに向かったとの事です。

ライゼスダフォル…確か以前お父様がお仕事の出張?とか何かで訪れた場所だったと思うのですが、ライゼスダフォルがどんな場所なのかは私はご存知ありません。

後程、お父様に報告する時にお聞きしましょう。

何はともあれお三方の回復を喜び、新しい情報を手に入れ旅が再開出来る事に安堵している私達とは反対に、部屋の隅でお父様と血薔薇様が壁に背中を預け会話をしていました。

薔薇糖様のお姿は見当たらないので、きっと看病のお疲れから一足先に船に戻ってお部屋で休んでいるのでしょうか。

…お父様と血薔薇様がどんなお話をしているのか気になってしまったので、お行儀が悪いのは百も承知ですがこっそり聞き耳を立ててしまいました。

何をお話してるんでしょう?


「お疲れ、ニュロ。」


「ん。…あれ、ジャック。」


血薔薇様はお父様のお顔をジッと見つめてきました。


「うん?なんだいニュロ?僕の顔なんかじっと見て…何か僕の顔に付いているのかい?」


「…君の目ってそんな色だったか?なんだかどことなくピンク色が混ざった感じになってるぞ。」


血薔薇様から瞳の違和感を指摘されたお父様は、懐から手鏡を取り出し、自分の顔をまじまじと見ています。


「…本当だ。うーん、蝶が出ないように徹夜であの3人の傷口を塞いでいたり魔法で病気の進行を遅らせたり…看病してたからね、ちょっと疲れてるのかも。申し訳ないけどこの後、船に戻ったら休ませて貰おうかな…なんだろうね、いつもなら眠くなる時間じゃないのに今日はなんだかすごく眠たいんだ。…兄さんのベッドにでも潜ろうかな。…なんて。…おいおい、ここは笑うところだよ、ニュロ。」


お父様はクスクスと笑いつつ軽く欠伸をした後、ぐーっと背伸びをしました。

血薔薇様もどうやら疲れが溜まっているようで、お父様の冗談を軽くスルーしつつ目を擦っています。


「……そうか。んー、私も少し早いが戻ったら明日に備えてもう寝るとするか。首が痛い。あー、それとジャック 寝る前に君に言う事が…」


話の途中ですが、あの時エムロード様とお茶をする約束があるのを思い出し準備の為に急いでその場を後にしました。

お茶の準備が終わり、エムロード様と休憩室で一緒にお茶を嗜みながら、私は考えます。

…一体、この先何が待ち受けているのでしょうか。

なんでしょう、確信は持てないのですがとても嫌な予感がします。

でも、その嫌な予感とは何なのか。

私も、仲間達も、もしかしたらお父様達も…分からないのです。


ブラッドパピヨン・クランクハイト 終


行動不能者


エリュー=トゥリアンダフィロ


フォソル


カメリア


採取 リザルト


〜癒花編〜

目標本数…50本


1日目

・セアリアス

6本取れた!

・ジェンナ

取れずに軽い怪我だけしてしまった…

・オランジュ

2本取れた!

・エルピス

3本取れた!

・エムロード

1本取れた!

・グラティア

4本取れた!

・グレイス

6本取れた!

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合計22本…残り28本


2日目

・オランジュ

10本取れた!

・スヴァーレット

取れずに崖から落ちて転落死してしまった…

・グラティア

6本取れた!

・ジェンナ

取れなかった…

・セアリアス

取れずに軽い怪我だけしてしまった…

・エムロード

5本取れた!

・エルピス

1本取れた!

________________________


合計22本…残り6本


3日目

・オランジュ

8本取れた!

・ジェンナ

4本取れた!

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合計12本

癒花編目標本数達成!


〜地楡編〜

目標本数…60本


4日目

・セアリアス

1本取れた!

・オランジュ

怪我をしたけど3本取れた!🚰

・グラティア

6本も取れた!

・スヴァーレット

3本取れた!

・ジェンナ

赤い蝶が襲いかかりそれどころではなかった…

・グレイス

4本取れた!🚰

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合計17本…残り43本


5日目

・オランジュ

怪我をしたけど3本取れた!🚰

・グラティア

4本取れた!🚰

・グレイス

6本も取れた!

・ジェンナ

魔物の襲撃でそれどころじゃなかった…(デバフ:灼熱による熱中症で死亡)

・スヴァーレット

2本取れた!🚰

・エルピス

2本取れた!🚰

・セアリアス

暑さでそれどころじゃなかった…(デバフ:灼熱による熱中症で死亡)

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合計17本…残り26本


6日目

・オランジュ

怪我をしたけど3本取れた!🚰

・グラティア

6本も取れた!

・エルピス

よく見たら違う植物だった…


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合計9本…残り17本


7日目

・オランジュ

6本も取れた!

・グラティア

2本取れた!🚰

・グレイス

4本取れた!🚰

・ジェンナ

取れなかった…

・セアリアス

魔物に襲撃されて死亡してしまった…

・エムロード

1本取れた!

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合計13本…残り4本


8日目

・オランジュ

怪我をしたけど3本取れた!🚰

・グラティア

2本取れた!

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合計5本

地楡編目標本数達成!


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