カーストバースデー
視点…オランジュ・ロジエ
船に揺られてついたここはライゼスダフォル。
ここは死刑囚の尋問や拷問を行っていた場所。
現在は死刑制度そのものが廃止された為、荒れ果てた土地となっている。
死刑囚の怨念や無念が漂っていると噂されている為、上述した土地の管理不足も相まってここに訪れる人は滅多にいない。
…と、ジャックさんが言っていた。
確かにそう言われてみると、無惨にも散っていった死刑囚達の辛そうな、苦しそうな声が聞こえる…ような気がしなくもない。
…なんだか能力の代償として自分に不幸が降りかかる私の体には合わないかもしれない。
ご夫婦を見つけ出して、一刻も早くここから出たいものだ。
相談した結果、手分けして周辺を散策する事にした。
今度こそ、見つかると良いのですが。
散策し始めて、10分が経過した頃だろうか。
途中、空がどんよりしてきたと思いきやポツポツと雨が降ってきた。
にわか雨だと思われたが、雨は止むことを知らずにどんどん勢いを増していき やがて土砂降りとなっていった。
雷も鳴り始める、こうなってしまうと中々止まないだろう。
もしかして、死刑囚達の数多の怨念がここの天候をも左右させてしまうのか?…まさか、そんな非現実的な事があってたまるか。
いや、薔薇が人間になっている時点で非現実的も何もないか。
なんて考えていると、近くでオロニさんがうんざりした顔をしながらため息をつく。
「あぁ、タイミングが悪いですね…。あぁ、やだやだ。…ジャック、申し訳ありませんがお前の薔薇庭園に一旦避難させて頂きます。何かあったらすぐ呼ぶのですよ。」
「おや、残念だ。…まぁ仕方ないね。分かったよ。」
オロニさんは傘を広げたと思ったら、目の前からパッといなくなってしまった。
そういえば、彼は雨が嫌いなんでしたっけ…どうして嫌いなのか、とか詳しい事情は知りませんが嫌いなものは仕方ないですね。
さて、探索に戻るか…と思い足を踏み出そうとすると 今度はまるで香水を溢してしまったかのように強烈な甘ったるい香りが辺りを漂う。
とてもではないがいい香りと言うには程遠く、寧ろ香水臭いという言葉が今の状況に合うだろうか。
それにしても誰か香水でも持って歩いていたんだろう?
…はて、香水を常に離さず持ち歩いている人なんてこの中にいただろうか?否、私の知っている限りそんな人物はいない。
天候といい、謎の香りといい、先程から疑問ばかりが生まれる。
本当に、死刑囚の怨念だけの物なのだろうか?
そして、その香りを強く嗅いでしまったであろうニュロさんが気分が悪くなってしまったのか、グラグラと体が揺れたかと思うと俯せに倒れてしまった。
ジャックさんが歩み寄りニュロさんの意識を確認すべく頬を軽くペチペチと叩くが、どうやらあの香りには睡眠作用もあったのか深く眠ってしまっているようだ。
「おやおや、ニュロ。君もかい?ちゃんと寝てなかったのかな。ははっ、仕方ないなぁ。そうだな…1回僕の薔薇庭園に転送しておこう。」
ジャックさんはニュロさんの体に向かって呪文を唱えたかと思うと、ニュロさんの体は光に包まれる。
ニュロさんを包んだ光の塊は空高く登っていったかと思うと、どこかに向かって飛んでいってしまった。
…そういえば、先程あの香りには睡眠作用があると私は推測したがここにいる私達は眠くならないのは何故だろうか?
睡眠作用には多少の誤差があるのだろうか?ならいずれ私達もいきなりフッ、と眠くなるのか。
…何故だ、本当に疑問しか残らない。
考え事をしながら空を眺めていると、ジャックさんが私の肩に ポン、と触れてきた。
「ほら、オランジュ君。ボーっと見てないで早くご夫婦を探したまえ。ご夫婦が見つかる前に君が風邪を引いてしまうぞ。」
「…貴方に言われずとも、分かっていますよ。」
私は、ジャックさんの手を払い除けると探索に戻ろうとする。
すると、ジェンナさんが息を切らしながらこちらに向かって走ってきた。
ゼェゼェ、と息を切らし呼吸を整えている彼女にそんなに慌ててどうされたのか、と問いかける。
すると、驚きの答えが帰ってきた。
「…ご夫婦が…探していたご夫婦が…い、いました……。」
…驚いた。
きっとまた入れ違いになってどこかへ行ってしまうと思っていた。
どうやら、今度は入れ違いにならなかったようだ。
その事実だけで、一安心する。
「おや!でかしたぞ、ジェンナ君。無我夢中で僕らを探して走り回ったせいで息を切らしている所、大変申し訳ないが早速その場所に案内して貰えるかい?」
ジェンナさんは深呼吸をして、自分自身を落ち着かせる。
「…分かりました…こちらです。」
ジェンナさんが先頭になり、私達はその後を着いていく。
…いよいよ、いよいよ会えるんだ。
夫婦がやっと見つかるという期待に胸を膨らませる、と同時に場所が場所なのもあり 何かあったらどうしよう、と不安も押し寄せる。
…どうか、どうか何も起きませんように。
私は天に向かい、ご夫婦の無事を祈る。
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「あ、あの人達です…あの後ろ姿、ご夫婦と一致していませんか…?」
ジェンナさんが遠くを指指す。
確かに黒い髪の男性、白い髪の女性が傘を差しながら今尚しとしとと振り続ける雨が止むのを待っているのか、その場に佇んでいる。
確かに写真と服装が一致しているが、後ろ姿なので正面を見ない限りは何とも言えない。
「…ふむ、確かによく似ているね!でも同一人物と断定するにはまだ判断材料が足りないかな。もしかしたら、ライゼスダフォルにいる死刑囚の怨念が生み出した幻覚、なんて可能性もあるからね。」
…確かに一理あるかもしれない。
ここで迂闊に行動するのは命取りになるんだ。
「…じゃあどうするんだ?このままずっとこうして見張っているのか?」
スヴァーレットさんが顔を顰める。
その言葉を聞いたジャックさんはカラカラと乾いた笑い声を上げる。
「こらこら、そんな事してたら拉致が開かないだろう!…うーん!まぁ、日頃から頑張っている諸君にちょっとしたご褒美、出血大サービスって事で僕が行ってこよう。君たちはここで大人しく待っていてくれ。特に問題がなければ、僕が合図して君たちを呼ぶからさ。」
ジャックさんは一切怯むことなく、ご夫婦と思われる人物達に歩み寄る。
私達は物陰からじっ…と様子を伺う。
…12人がまとめて物陰に隠れているので少々きついのは言うまでもない。
「やぁそこの人間君達、ご機嫌よう。こんな寂しくて冷たい場所でデートなんて中々渋いじゃないか。」
ジャックさんに声をかけられて、ようやく彼らは前を振り向いた。
「あ……はい………?」
「誰だ……お前は……?」
…あのお顔、間違いなく探していたご夫婦だ。
しかし、ジャックさんから合図がないので動けない。
カメリアさんやエルピスがやったー!と歓喜の声をあげようとしたので、近くにいたグラティアさんと一緒に彼らの口を塞いだ。
ご夫婦にここに身を潜めている事がバレてしまっては元も子もない。
「あぁ、申し遅れてしまったね!僕はしがない便利屋をしている男、名前はジャクリーヌ。ジャクリーヌ・スキュア=オーバラライデン。まぁ長いから気軽にジャックと呼んでおくれよ。」
ジャックさんが軽く自己紹介をすると、ご夫婦は驚いたような顔をしてヒュッと息を飲む。
「…便、利……屋……、…ジャ、ク……リー、ヌ……!?」
「あ、あ、あ……ぁ……じゃ、あ……!!」
しかし、この2人の表情…驚いているというより顔が青ざめているといった方が良いだろうか。
ただ彼は職業と名前を名乗っただけなのに、なんだか様子がおかしいような…気のせいだろうか。
ジャックさんは特に様子がおかしいことは気に留めず、話を進める。
「おや?僕の事をご存知かな?それはそれは嬉しいね!君達がジオンモナンで行方不明になっていた夫婦で合ってるかい?」
ジャックさんの問いかけに、ご夫婦は様子がおかしいながらもちゃんと答える。
「あ……ぁ…あ…」
「は、い………」
ご夫婦の出した答えに、ジャックさんは満足そうにニコニコと笑う。
「どうやら当たったようだ!いやはや、随分と探したよ。君達を探し出して連れ戻すのが今の僕の仕事でね?…さぁ、共にジオンモナンへ帰ろうじゃないか。君達に会わせたい子達もいるんだ、ほら行こう。」
ご夫婦の前にソッと手を差し伸べようとする。
しかし、手を差し伸べる瞬間 旦那様がジャックさんの手を勢い良く払い除けてしまった。
奥様が耐えられなくなってしまったのか、とうとう目から大粒の涙を流し嗚咽を漏らしながら泣き出してしまった。
旦那様は涙目になりながら奥様を宥めつつ、ジャックさんから距離を置こうと後ろに下がる。
「ごめんなさい…ごめんな、さい…!!」
「許してくれ…許してくれ…頼む…」
どうして謝られているのか意味が分からないジャックさんは、泣きながら許しを請う2人に歩み寄ろうとする。
「…?何を謝っているんだい?ほら、逃げないでくれよ。早くおいで。」
ジャックさんがもう一度手を差し伸べようとしたその瞬間、ジャックさんの首に包丁のような刃物が当てられる。
そして仲間の声でも、ジャックさんや旦那様の声でもない男の声がどこからか聞こえてきた。
「ぬかったな、大魔法使い。」
突如、何もない空間から男が現れた。
ボサボサの灰色の髪に顎髭、ヨレたシャツにズボン、汚れたサンダル…
仲間達も顔を見合わせて誰なんだろうと首を傾げている辺り、この男が何者なのか誰も知らないようだ。
しかしジャックさんはこの男を知っているようで数十秒間を開けた後、怯える様子もなく自身の首に刃物を突き立てている男に話しかける。
「…おやおや、君は夫婦探しを依頼した人間君じゃないか。」
…一体、何が起こっているんだ?
この男が行方不明の夫婦を探してくれ、私達ダーズンローズを人間にしてくれと依頼した人間?
その男が何故か今、刃物を使いジャックさんを脅している。
目の前で起きているこの状況が全然飲み込めない。
飲み込めと言う方が無理があるだろう。
少なくとも良くない方向なのは確かだった。
しかし、私達はどうすればいいのか分からずただこの状況を黙って見ている他なかった。
男は突きつけた刃物を下ろす事なく、変わらずジャックさんを脅している。
「手を上げろ。」
この状況が耐えられなくなった奥様が悲鳴を上げる。
「やめて!!やめてサラール!!!」
サラールと呼ばれた男は、ジャックさんの首に刃物を押し込む。
刃物はプツ…と皮膚を切り裂き、真っ赤な血が彼の首筋を伝う。
一瞬、痛みに顔を歪めるが変わらず笑顔を作り ジャックさんはサラールのいる方向に顔を向ける。
「…この僕を脅すなんて!依頼人君、僕が誰だか分かっててやってるんだよね?」
ジャックさんは、男…サラールから包丁を取り上げようとする。
「あぁ、分かってるさ。だからこそ、だ。」
サラールはいきなり消えたかと思うと、一瞬の内にジャックさんの目の前に移動し思い切り刃物を振り翳す。
「え?……っ!」
ズブリ、とジャックさんのお腹に怪しく黒光りする刃物が深く、深く突き刺さる。
確かいつもの彼ならお腹に刃物が刺さったままでも会話が出来るはず。
こんな時でも彼は余裕そうな笑みを忘れない。
「こんな玩具で僕を殺そうなんて見縊られたも……の………?」
いつも私達を楽しんでいるかのような、憎たらしいとさえ思えるあの怪しい笑みが彼の顔から消えた。
なんだか様子がおかしい。
顔からドッ、と脂汗を吹き出し みるみるうちに苦悶の表情に変わる。
「……ァ……あ"…ァ"……??」
包丁が突き刺さった所から、じわじわとジャックさんの体が黒く染まっていく。
「お前が唯一使えない魔導、それが黒魔導。大魔法使いさんよ、俺に言わなきゃ良かったな。黒魔導が使えないなんてよォ…。話す相手を間違えちまったな。」
立つ事が困難になったのかジャックさんは膝から崩れ落ちた。
サラールはもがき苦しむジャックさんを頭上から見下ろし、笑いながら話を続ける。
「この刃物はな、相手をとことん苦しめる黒魔導を込めているんだ。頭の良い大魔法使い様ならこの後どうなるか…分かるよな?」
ジャックさんが震える手でお腹に突き刺さった刃物を抜いても、彼の体を染めあげる黒が止まることはなかった。
禍々しい黒は脚、太腿、胸、肩を染め上げ やがて彼の顔に浸食していく。
ジャックさんはあらゆる魔法を発動し、黒魔導の進行を食い止めようとするがそれは叶わず どう足掻いても自分はもう助からないと悟ったのか、やがて彼は魔法を唱えるのを諦めてしまった。
ジャックさんはサラールを見上げ、苦しそうな掠れた声で敗北を告げる。
「…黒魔導が……体内に……取り込まれる……そして……対象は…生きながら地獄を……味わうんだろうな………は、は……こんな…事なら……呪文を封じる魔法を………さっさと……かけておくべきだったな……君が……ただの人間だからと…たかを括って…しまっていた…。……いや……こんな時は………すぐさま刃物を……取り上げる…べきだったな………どっちにしろ………後の祭りか………」
この言葉を皮切りに、ジャックさんの体が完全に黒く染まったかと思うと突如黒く禍々しいエネルギー波が彼の体を飲み込み 彼の口から断末魔のような悲鳴が上がる。
目の前で何が起きているのか整理がつかない。
だって、あの大魔法使い様が不覚を取りやられているのだ。
冷静でいられる訳がない。
しばらくすると、まるで何かが焦げたかのような嫌な匂いが辺りに立ち込める。
ジャックさんを飲み込んでいたエネルギー波が徐々に弱まっていき、やっと彼は解放されたかと思いきや、まるで火災に巻き込まれたかのように服や肌、髪の一部が焼け焦げ、全身煤だらけの変わり果てた姿で出てきたジャックさんは糸が切れた操り人形のように後ろに倒れ ビクン、と四肢を痙攣させると…そのまま動かなくなった。
流石にもう黙って見ている訳にはいかないと思ったのか、仲間達が物陰から飛び出していき男の前を塞いだ。
エルピスとハニーベルさんだ。
「ちょっと〜!!ジャックさんに何て事するのー!!」
「流石に看過出来ないのです。」
2人は男の前に立ち塞がり、攻撃態勢に入る。
エルピスは魔法を唱えるべく杖を振り翳そうと、ハニーベルさんは箒を巨大な盾に変形させ男の前に一歩踏み出す。
しかし、男はまるで罠にかかったなと言わんばかりに ぱちん、と指を鳴らす。
何事かと思うのも束の間、2人の足元から紫色のエネルギー波が出現し 抵抗する間もなく2人を飲み込んだ。
「やだ!やだ!!怖い!!!痛い!!リア!!!助けて!!」
「あ……エムロード……様……!!」
エネルギー波は徐々に勢いを増していき、2人の苦しそうな悲鳴が上がる。
「エルピス?エルピス!!!」
「何て事…!」
「…飛んで火に入る夏の虫とはまさにこの事、なんてな。」
唖然とするカメリアさんとエムロードさんを横に、スヴァーレットさんとグレイスさんが男に攻撃しようと背後から襲いかかる。
「野郎、背後ががら空きだ。」
「今すぐにあのエネルギー波を消してエルピス様とハニーベル様を解放して下さい。消さない、解放しないと言うならここで貴方を斬ります。」
スヴァーレットさんとグレイスさんは攻撃しながら男に向かい警告するが、男は2人の攻撃を避けつつまるで面倒臭いと言うように、頭をボリボリとかく。
「あーあー、そういうの本当にいいって。くどいんだよ。正義のヒーロー気取りか?正直うざい。」
男にようやく攻撃が当たりそうな手前で男の手から紫色のエネルギー波がレーザーのように出てきた、グレイスさんが男ではなくエネルギー波に対象を変更して攻撃しようと身を翻し、エネルギー波目掛けて斬り掛かるが寧ろエネルギー波はグレイスさんの武器である刀ごと2人をばくり、と呑み込んだ。
「ス、スヴァーレットさん……!?」
「グレイスさん…!!!」
青ざめるジェンナさんとフォソルさんが2人に向かって手を伸ばしたが、間に合わなかった。
男はエネルギー波の中から聞こえるスヴァーレットさんとグレイスさんから上がる絶え間なく続く痛みに苦しむような悲鳴を耳にした後、ゆっくりとエリューさんの元へ歩み寄っていく。
「…人間風情がこの私を殺すと?ハッ、とんだお笑い草だな。」
右手に劇薬を注いだ注射器を構えながら、エリューさんは男を煽る。
「…その生意気な口も今すぐ黙らせてやるよ。」
エリューさんへ向かい、エネルギー波を出したその時だった。
セアリアスが彼らの間に割って入ってきた。
セアリアスはエリューさんを思い切り突き飛ばし、黙って1人 紫色のエネルギー波に呑み込まれていった。
「……は?」
突き飛ばされたエリューさんは、ただセアリアスがエネルギー波に呑まれる様を見ている他なかった。
サラールはエリューさんの顔を見てゲラゲラと笑う。
「へぇ!!!こんな時でも仲間の為を思って犠牲に出来るたぁ素晴らしいな。良かったな、今は見逃してやるよ。」
呆然とするエリューさんを他所に、サラールは私の方を振り向いた。
「次はテメェだ、そこの騎士の身なりの女。」
抵抗しようにも、次々と仲間が襲われた恐怖を間近で見てしまい腰が抜け、足が竦んで動けない。
サラールはニヤリ、と笑うと私のいる方向へエネルギー波を出した。
…すみません、皆さん。
私はもうダメみたいです、このままやられるしかないようです。
数秒後に来るであろうエネルギー波による苦痛、死を覚悟して、ゆっくりと目を瞑った。
…?
あれ、エネルギー波が来ない?どうしたのだろうか?
違和感を感じ、ぱちっと目を開けるとそこには今にもエネルギー波に呑み込まれそうなグラティアさんがいた。
「……え?」
なんと彼女は私の前に飛び出し、私のかわりにエネルギー波を受けたのだ。
「なん…で……どうして…ですか……?」
理解が追い付かず、それしか言葉が出てこなかった。
「全く…貴女、は、いつもそう、無茶ばっかりして…」
グラティアさんは呆れるように笑っている。
辛いだろうに、痛いだろうに、苦しいだろうに…私を心配させまいと思っているのだろうか、彼女は苦痛に耐えながら私に向かい優しく微笑む。
「ごめんなさい、ね…もう…貴女の側に…いて…あげられそうに…ないわ…許して頂戴………」
紫色のエネルギー波が、グラティアさんの体をじわじわと蝕む。
助けようと手を伸ばそうにも、あと一歩間に合わず間もなく彼女はエネルギー波に全身を飲み込まれる。
彼女の口から発せられる断末魔のような叫び声。
私はただ、大切な仲間が襲われる惨状を呆然と見てるしか出来なかった。
体感時間1分にしてエネルギー波は徐々に弱まっていき、何かが私の足元に飛んできた。
それはバチバチと紫がかった火花を散らす紫色の薔薇。
紛れもない彼女"だったもの"だ。
「……グラティア、…さん……?」
…嘘ですよね?
…嘘だ。
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ…。
こんなの嘘に決まっている!!!
グラティアさん…どうしてですか?
どうして私を守ったんですか?
私が犠牲になれば良かったのに…
私が犠牲になれば良かったのに!!
グラティアさんは私を守っていなくなってしまった。
私のせいで、彼女はいなくなってしまった。
私のせいで、彼女は…
私が…私が!!
私のような"異物"が犠牲になれば良かったのに!!!!!
しかし、目の前で起きている現実はグラティアさんが私を庇った事で私が生き延び、グラティアさんはそのせいでいなくなった。
これは紛れもない事実。
「あ、あ…あ…あ……ぁ…っ!!!!」
自分のせいで彼女がいなくなってしまった事実が信じられず、やがて目からボロボロと涙を流し嗚咽を漏らしながらグラティアさんだった紫薔薇に触れようと手を伸ばすと、仲間の声ともご夫婦やサラールの声とも、ジャックさんとも違う男の声が聞こえてきた。
「こら、無闇にその薔薇に触れるのはおよしなさい。これ以上望まない犠牲を増やすのは良くないと"私"は思うよ。」
誰だろうか?サラールの部下か何かだろうか。
腰が抜けた体ではどうする事も出来ず、ただ耳で声の主の様子を伺う他なかった。
警告を無視して紫薔薇に触れようとすると、また同じ男の声が聞こえてきた。
「…もう1度警告しましょう。今触るのはやめた方がいいよ、そこの"オレンジの髪の女の子"…。」
オレンジの髪の女の子、恐らく私の事だろう。
頭では触れるのを止めようと理解しているのだが、無意識に紫薔薇に触れてしまっていた。
「え…?……っ…!!」
その瞬間、まるで炎に触れたかのような鋭い痛みが走った。
指を見てみると薔薇に触れた箇所は赤く腫れ上がっている。
どうやら今、薔薇に戻ってしまった人達に触れてしまうと薔薇の周りに飛び交う火花のせいで火傷をしてしまうようだ。
男が触れるのを止めたほうが良いと言ったのは、この事を知っていたのだからなんだろう。
「…とりあえず、一旦場所を移そう。…そうだね、"彼"の薔薇庭園に行こうか。船はとりあえずここに置いておこう。」
軽く火傷を負ったのが引き金になったのか先程まで腰が抜けていた体がようやく自由が利くようになり、声の主の方に体を向ける。
…驚いた、先程まで倒れていたジャックさんがまるで何事もなかったかのように立っていた。
しかし、私が知っている彼と今その場にいる彼はなんだか様子が随分違うことに気付いた。
全体的に体がピンクがかっていて、いつもは濁った茶色の瞳も今はいきいきとしたピンク色に変化している。
そんなジャックさん…らしき者は素早く呪文を唱えると、仲間達をいつもの薔薇庭園へと転送した。
…サラールとご夫婦を取り残して。
「あっ!……逃したか。まぁ良い、今は逃げていれば良い。残りの"人間"としての生をせいぜい楽しむんだな。」
クク…と不気味に笑う男の声が、ライゼスダフォルに響いた。
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「ここで場所は合ってるよね。」
無事に転送に成功し、ふわりと彼は薔薇庭園に降り立つとぐるりと辺りを見渡す。
「ほう、綺麗な薔薇庭園だ。ちゃんと手入れが行き届いている…美しい。」
彼は近くにあったイングリッシュローズに触れ、観察しているとオロニさんが焦りながら小走りでこちらに向かってきた。
「あーっ!ちょっとお前達!どういう事です!?いきなり眠っているニュロが転送されてきたと思って駆け寄ったらニュロの体についていた香水のようなものの残り香を吸い込んだら眠くなってしまって、つい眠ってしまったんですよ!?そして起きたらお前達……が……?」
一方的にお喋りを始めたオロニさんは、視線を移した先にいたジャックさんらしき者を見るとピタリとお喋りが止まった。
「やぁ、ご機嫌いかがかな?」
オロニさんの様子を対して気に止めず、ジャックさんらしき者はオロニさんに軽く挨拶をする。
「ジャック…?お前…様子がおかしいですよ?どうしたんです?今のお前、まるで"アイツ"みたいですよ?」
オロニさんは心配そうにジャックさんらしき者の顔を見つめるが、ジャックさんらしき者は気まずそうに顔を逸らす。
「…そもそも今の"私"はジャックではないからね。"私の事、忘れてしまったか?"」
オロニさんは言葉の意味が分からず、考える素振りをする。
しばらくすると、彼の中で言葉の意味が分かったのか怒りを露わにしてジャックさんらしき者の胸ぐらを掴む。
「……お前…まさか……!!お前はあの時確かに"死んだはず"でしょう…!?亡霊風情が今更わたくし達の前に現れて何の用なんですか!?ジャックはどこにいるんです!?今すぐジャックを返しなさいな!!」
激昂するオロニさんに対して動揺するどころか、彼は自身の胸ぐらを掴んでいるオロニさんの手をバシッ、と払い除ける。
「今は難しいな。用が済んだらちゃんと返すから今は引っ込んでいろ、"オロニ"。」
…いつもなら彼はオロニさんの事を"兄さん"と呼ぶはずだ。
どうやらオロニさんの言う通り、本当に彼は本物のジャックさんではないようだ。
オロニさんはジャックさんらしき者に何かを嗅がされると、ガクリと全身から力が抜けたように正面に倒れた。
「ごめんな、話が面倒になるから少し眠っていろ。」
彼は苦笑いをしながらオロニさんを抱き抱えると、まだ眠っているニュロさんの近くにそっと下ろした。
「さて、話を戻そう。」
彼は一緒に転送されてきた、先程まで仲間だった、人間の姿をしていた黒薔薇、金薔薇、青薔薇、虹薔薇、紫薔薇、黄薔薇を魔法を使い掻き集め、空中に浮遊させるとまじまじと薔薇達の様子を伺う。
どうやらあのエネルギー波に呑まれると薔薇に戻ってしまうようで、エネルギー波を受けた仲間達は全員変わり果てた姿になってしまった。
薔薇に戻されず残った仲間達はと言うと地面にへたり込んだまま今も尚呆然としている者、惨状が受け入れられず泣いている者、ジャックさんらしき者を警戒する者等様々だ。
「ふむ…これは黒魔導による呪いだ、紛れもなくあの男が君達が夫婦を連れ戻すのを妨害する為にかけたんだね。"彼"が黒魔導が使えないのをどこかで聞いたのをいい事に何かしらの方法を使って黒い魔力を取り込んだのか、或いは彼のご先祖様が黒魔導を使っていて彼もその素質があって何かをきっかけに眠っていた黒魔導への力が目覚めたのか……いずれにせよ一大事だね。このままだと彼らは二度と人間に戻れない。」
ジャックさんらしき者は薔薇を見ながらブツブツと独り言を呟いている。
…彼の独り言の邪魔をするのは気が引けるが、このまま彼を黙って見ている訳にもいかないと思い、私はずっと疑問に思っていたことを口に出す。
「あの…貴方は…誰なんですか……?」
私の声が耳に入ったのか、彼の独り言はピタリと止まる。
「おっと、申し遅れてしまったな。ごめんね。」
自分の世界につい入り浸り、この場にいる仲間達を取り残してしまった事について軽く謝罪する。
ジャックさんらしき者は私達の方に向き直し、深くお辞儀をしながらまるで私達が初対面のような挨拶をする。
それはいつものジャックさんとは似ても似つかぬような、まるで天使のような、神のような…とても優しく心地の良い笑みだった。
「紳士淑女の皆様方、ご機嫌よう。そして初めまして。…私はかつて香薔薇の大魔法使い様と呼ばれていた リクオル=オドーラートゥス。そしてさっきまで大きな未練を抱えてこの世を彷徨っていた幽霊。今は戦意喪失した"彼"の体を一時的に貸して貰っているんだ。宜しくね。」
アンケート リザルト
「使い方はこれで合ってるかな?あーあー、聞こえるかい?皆。悲しんでるところ大変申し訳ないが、呪いを解くためには君達の力が頼りだ。生憎私は死んでいた期間が長すぎたせいで呪いを解く魔法を覚えていないからね。君達はその魔法の手がかりを探してきてくれると助かる。」
「辛いだろうがこれもまた君達を成長させるきっかけになると思う、さぁ見せてくれ、ダーズンローズよ。君達の絆とやらを…なんて臭い台詞言ったの久々だなぁ…たはは。」
▶行動不能者に会える不思議な香水を手に入れた。
「この香水は貴重なんだ。くれぐれも頻繁に使用するのは控えるようにね。」
まずは何をしようかな?
歴史館へ行こうかな?
図書館へ行こうかな?
▶リクオルにヒントを貰おうかな?
今夜は寝かせてほしい
「え?私からのヒントが欲しい?うーん…私が生きていたときと比べてこの国は随分変わってしまったからな、何から調べて貰えば良いか…じゃあジオンモナンの中央にある国立図書館へ行ってみたらどうかな。」
ここはジオンモナンにある国立図書館
どのコーナーに行こうか?
歴史・地理
旅行・紀行
▶魔法・魔術・魔導
教育・自己啓発
魔法・魔術・魔導コーナーに行ってみた、しかしこのコーナーの本は500冊前後あるらしい。
全て読破するとなると6人いても1日では終わらなさそうだ…そこで年代を選んで本を見る事にした。
どの年代の本を取ろうか?
現在〜10年前
100年前〜1000年前
▶1000年前〜10000年前
10000年以上前
1000年〜10000年前の年代の本を取る、この年代の本は12冊あった。
"呪い"や"黒魔導"なので、な行とか行のページを開けば見れるはず。
貴方達は手分けして本を読み始める。
しかし、ここで違和感に気付く。
な行とか行のページがどれもインクのようなものでべっとりと黒く塗り潰されていた。
館内にいたスタッフに見せた所、こんな染みは最後に確認したときはなかったとの事。
これもサラールの仕業なのだろうか?
何の収穫も得られず閉館時間となった為、一旦ジャックの薔薇庭園に戻ることにした。
「…やはりそこまで根回ししていたか。」
サラールの行動が読めず頭を抱えるリクオル。
「今日はもう遅い。明日の朝、また行動したらどうだ?」
時刻は夜12時を過ぎようとしていた、どうしようか?
寝ようかな?
▶もっとやる事があるはず!
「え?まだ起きてやる事を探すのかい?体を壊さないでほしいんだけど、まぁそこまで言うなら仕方ないか…今からどうするんだい?」
▶夫婦の部屋に行きたいかも
ジャックの部屋に行きたいかも
ライゼスダフォルに行きたいかも
やっぱり寝よう!
ジオンモナンにいる夫婦の家を訪れていた、鍵は"何故か"開けっ放しのようだ。
当たり前だが、夫婦はそこにはおらずいなくなってから半年が経過したのもあってからテーブルや椅子に少し埃が被っている。
他の部屋にも手がかりがあるか調べる為ダイニング、キッチン等分かれて探そうとすると背後から声が聞こえた。
「こんばんはぁ〜〜、こんな夜中にここに何用かなァ…?」
聞き覚えのある男の声にゾッと鳥肌が立つ、後ろを振り返ると…
…サラールがいた。
「俺とアイツらの関係を知っててここに来たんだよなー?んー?」
ど、どうしよう…?
1回薔薇庭園に戻ろう!
知るか、攻撃する!
▶冷静に話をしよう!
冷静に話をしてみようと試みる
しかし、仲間を6人も奪い夫婦を拉致した男がまともに話が出来ると思うだろうか?否…
「話をしようだぁ?良いぜ、ただし…」
持っていた煙草をカーテンに投げる、カーテンはたちまち燃え始める。
「あの世で話そうや。」
ジリジリとサラールが近付く、その時香水が香ったと思うとダーズンローズ達は姿を消してしまった。
香水の主…紛れもなくリクオルだ。
「だから言っただろう、もう寝た方が良いと。夜にあいつが出歩いていないと確信するのは危険だ。」
…どうやら選択を間違えたようだ。
当のサラールは水道から水を持ってきて火を消したと思うと、その場からいなくなってしまった。
「さて、もう一度聞くが…今日はもう寝るか?それともまだ行動するのか?ちなみに今は夜中の2時だ。」
▶もう寝ようかな?
起きて出来る事を探す!
「はぁ、やっと寝てくれるんだな…了解。そんじゃ、おやすみ。」
色々な事がありすぎて疲れてしまい、布団に入ってすぐ眠ってしまった。
その日、奇妙な夢を見た。
楽しそうに会話する声が聞こえる。
姿はぼんやりとしていて見えなかった。
ここにいる人達は全員家族のようなものなのだろうか、なんだかとても暖かい光景だった。
最後に誰かの墓の前で立っている男女を見た所で目が覚めた。
…体に残る香水の残り香。
気の所為だろうか?前にもこんな事あったような…?
「おはよう、皆。今日も頑張ろうな。」
「さて、今日はどうする?」
歴史館へ行こうかな?
▶ジャックの部屋に行こうかな?
ライゼスダフォルに行こうかな?
今日は休みたいな?
「あいつの部屋か。とりあえず強力な魔法陣がかかっていたから解いては置いたんだが…」
今まで入る事が出来なかったジャックの部屋に入ってみた。
壁一面にずらりと並んだ本、あちこちに散乱する紙、革張りのソファ、テーブルランプ付のテーブル等…まるで書斎だ。
「どこから調べるんだ?」
▶本棚
テーブル
床に散らかっている紙
金庫
本棚を調べ始める。
はらりとメモ用紙が落ちてきた。
「2」…と書いてある、何の数字だろうか?
メモ用紙をテーブルに置き、再度本棚を調べ始める。
しかし、呪いや黒魔導に関する魔導書はどこにも見当たらなかった…
「うーん、違う場所にあるのか?ジャックの考えは読めないね。…次はどこを探そうか?」
テーブル
床に散らばった紙
金庫
▶テーブルにある手帳
テーブルにある手帳を手に取った。
どうやらスケジュール帳らしく、2ヶ月先まで予定がびっしり埋まっている、便利屋の仕事は今はリクオルが変わりに受けているようだ。
最後の方をめくってみるとボロボロの写真が出てきた。
ジャック、ニュロ、オロニの3人が映っているが…
ニュロの真上にいる人物は顔も体も全て黒く塗り潰されていて誰か判別が出来なかった。
誰なんだろうか?
しかし、手帳を見ても呪いを解く手がかりになりそうなものはなかった。
収穫といえば最初のページに挟んであった「0」と書いてあるくしゃくしゃのメモ用紙くらいだろうか。
この数字…何の意味があるんだろうか?
「次はどこを見る?」
▶床に散らかっている紙
金庫
テーブル
一旦場所を変えようかな?
床に散らかっている紙を見る事にした。
仕事に使っていた物なのだろうか?
依頼内容や仕事に必要な道具、請求金額が書かれている。
またしわくちゃのメモ用紙を見つけた。
今度は…「6」か。
「ねぇ、さっきから散らばってるメモ用紙の数字ってもしかして金庫の暗証番号だったりしない?」
リクオルに指摘されて金庫を見てみる。
金庫は3桁の暗証番号が必要なようだ。
「2」「0」「6」…どう組み合わせるが正しいのだろうか?
「…あー…なるほど。私は暗証番号は分かったけどお前達の答えが聞きたいからな…。お前達は「2」「0」「6」をどう組み合わせるのが正しいと思う?」
▶062
「062か…」
カチカチとダイヤルを回すとカチャ、とロックが外れたような音が鳴った。
金庫を開けてみると…
赤い星が書かれた紙が1枚あるだけだった。
「おい、なんだ…?いたずらか?いや…違う…まさか…。」
リクオルが慌てた様子で紙を取り上げると、コホンと咳払いする。
「きっと仕事に使うために金庫に保管しておいたんだな!うん、そうに違いない…。」
…?何か隠している?
「それはそうともうすっかり夕方になってしまったようだな。ジャックの部屋の探索はここまでにしよう。」
ジャックの部屋の探索が終了した。
「さて、次はどうする?今は夕方5時だぞ。」
歴史館へ行こうかな?
▶ライゼスダフォルへ行こうかな?
今日はもう休もうかな?
ライゼスダフォルへやってきた。
ご夫婦の姿は愚か、サラールの姿も見当たらなかった。
無駄足か?と思ったその時、背後から聞き慣れた声がした。
『おや、ご機嫌よう諸君!僕がいなくても元気してるかい?僕は呑気に亡霊ライフしてるよ。』
姿は亡霊のように透けているが、そこには本物のジャックがいた。
亡霊ながら色々試行錯誤してみた結果、ライゼスダフォルにいる時のみ本物のジャックの姿が見えるようにしたらしい。
『その様子だと呪いを解く手がかりを探しているのに苦労してるようだね!ご苦労さま!はは!』
笑いに来たのなら消えてほしい…なんて思っていると思わぬ事を口にする。
『残念だけど行動選択に残っている歴史館へ行こうと呪いを解く手がかりはそこにないよ。』
…ん?
『当たり前じゃないか。歴史館へ行っても呪いを解く手がかりなんてないよ?あるとしても…リクオルの容姿やリクオルに関するお伽話くらいしか分からないけどね。』
…どういう事だ?
『まぁいずれバレてしまうけどここでは伏せとくとして…僕は色々な事情があって歴史書や古文書の一部を破ったり黒く塗り潰したんだ。恐らく歴史館にある魔導書もその対象だった気がする。まぁ悪く思わないでくれ。僕にも色々あるんだ。』
何て事してくれるんだ…
『ただし、1冊だけ破らず塗り潰さず綺麗な保存状態の魔導書があるんだ。…その魔導書がどこにあるかは他でもない、リクオル自身が知っている。』
リクオルが…?
『ただその場所はリクオルにとって諸君らに行ってほしくない場所なんだ。』
『きっとそこに行ってしまうと刺激があまりにも強いし知りたくない物を全て知ってしまう事になるからね。』
余程大事な物を魔導書と一緒に隠しているのだろうか?
『まぁ、歴史館へ行くのをやめろとは言わないよ。好きにすればいい。ただ…』
『呪いを解く魔導書は歴史館にはないからやはり、リクオルを説得させる道しかない事を頭に入れておくといいよ。』
…覚えておこう、そろそろライゼスダフォルから出ようと離れようとするとジャックに呼び止められる。
『最後に聞かせてくれないかい?…あの人間君…サラール・デスグラシアを見つけたらどうするかを。』
生かしたい
▶殺したい
『…なるほど?君達と僕の想いは同じって事だね…ふふ。嬉しいよ、珍しく意見が一致したようでさ。』
ジャックは怪しい笑みを浮かべている。
『僕からは以上だ。それじゃあ、後の事は頼んだよ…諸君。』
ジャックに見送られ、ライゼスダフォルを後にした。
「おー、おかえり。遅かったな?収穫はあったのか?」
…ジャックの事は黙っておこう。
「じゃあ次はどうするんだ?今は夜の7時だぞ。歴史館はあと1時間位で閉まるかな。」
歴史館へ行こうかな?
▶この前隠した紙の意味を教えて。
そろそろ寝ようかな?
「は?……何の事、だろうか。」
リクオルは必死に話題を逸らそうとしている。
▶とぼけないで。
ごめん、なんでもない。
「とぼ…!?だって、なんで…あんなただの紙切れなんてどうだって良いだろう!?」
やっぱり何か隠しているよね?
▶良くない、何を隠してるのか教えて。
(問い詰めるのをやめようかな?)
「あ…ごめん、ついカッとなってしまった…」
自身を落ち着かせる為に、リクオルは一旦深呼吸をする。
「…あのね…」
「あの紙に付いていた赤い星の意味…あそこはジオンモナンとルタの間にある場所…そこは…」
そこまで言って、リクオルは黙り込んでしまった。
「やっぱり君達に知られるわけには…」
「いや…もうこうするしか呪いを解く道がないんだな…きっと…」
リクオルは咳払いすると、こんな事を言ってきた。
「お前達はこの先何が起きてもそれを全て受け入れる覚悟があるか?」
▶ある
ない
急にどうしたの?
「…分かった。そこまで言うなら仕方ない。…明日の朝8時にまたここに来てくれないか?」
今は夜の9時、どうしようか?
▶まだやる事を探そうかな?
言われるままに寝ようかな?
「え?今から何をやるんだ?夜はあいつが彷徨いてるかもしれないんだぞ…?」
ライゼスダフォルに行こうかな?
▶やっぱり寝ようかな?
「な、なんだよ驚かすなよ…んじゃ、おやすみ。」
早めに就寝することにした。
その日、また奇妙な夢を見た。
何も無い真っ暗な空間。
しばらく歩いていると、足に何かが当たった。
石か何かが当たったのかと思い、下を向くと…
"切断された右脚が転がっていた"。
冗談じゃない、マネキンか何かだろうと思い触れてみると、間違いなく本物の人間の脚だった。
ヒュッと息が止まりそうになり、思わず後ろに後退るとまた何かにぶつかる。
今度は何だと振り返ると…
"膨大な量の魔導書が床一面に散乱していた"。
一体何を見せられているんだと青ざめていると、また何かに当たる。
今度は…
"ゴミ袋に大量に詰まったプレゼントのような何か"だ。
啜り泣きながら何かを書いている誰かの声、誰かに恨み言をブツブツ口にしている誰かの声、どこか悲しそうな誰かの声も聞こえてきた。
一体何なんだ、悪い夢なら覚めてほしい。
夢の中で必死に逃げていると別の声が聞こえた。
"こんな私を許してくれ"。
そこで目が覚めた。
…香水を振りかけた覚えはないのに、また体から香水の残り香がする。
…きっと、フェスティバルの後に見た新しい能力が与えられた奇妙な夢もつい最近見た家族の夢もリクオルが自分達に見せていたのだろう。
「…おはよう。元気かな?」
昨日リクオルに言われていた時間と場所に集まっていくと、リクオルは深刻そうな顔でこちらを見つめる。
「…あのね、私が言いたい君達に知られたくない事っていうのは"あの夢の出来事"を全て知ることになるということなんだ。」
「それを踏まえた上で再度聞こう。お前達は全てを知る覚悟があるか?」
▶はい
いいえ
「…ん、分かった。」
リクオルはぱちん、と指を鳴らすと仲間達をどこかに転送する。
転送されてきた場所はジオンモナンとルタの間に位置する森の中のようだ。
「黙ってついてこい。」
一度入ったら二度と出れなくなりそうな森の中を進んでいく。
15分位歩いただろうか、今にも崩れそうな築年数が大分経過していそうなボロ家に到着した。
売り出されてはいるものの、あまりに古い為か現在家主はいないらしい。
その家の庭に奇妙なものがあった。
大きな石の前に白い薔薇が3輪添えてある、誰かのお墓だろうか?
そしてリクオルはあろうことかとんでもない事を口に出す。
「これを掘り起こせ。」
▶分かった。
……。
言われたとおりに掘り起こす。
しばらく掘り進めていくと、カンッとショベルに何か当たる音がした。
急いで掻き分けると、そこには…
_…棺があった。
目で開けてみろとリクオルが訴える。
棺に何が入っているなんてもうわかっているのに。
ここまで来たらもう引き返せるわけがない。
ギィ……仲間と協力して棺の蓋を開ける。
枯れた薔薇に埋もれた白骨化した遺体が横たわっていた。
蓋を開けた瞬間リクオルが辺りの空気を一瞬で清浄した為、腐敗臭が出るのは抑えられた。
薔薇と共に埋葬されたであろう魔導書を恐る恐る手に取る。
ジャックが言っていた通り、棺に納められていたにも関わらず本当に綺麗な状態で保存されていた。
パラパラとページをめくると…
__…あっ!これだ!
"黒魔導による呪いを解く魔導"
良かった、これで仲間達も元に戻るぞ!!
そう思い立ち上がると魔導書の後ろに挟まっていた何かが はらり、と落ちてきた。
なんだろう、と拾い上げる。
紙か何かと思っていたら……ドッッ、と変な汗が顔から吹き出てきた。
これはジャックの手帳に挟まっていた写真と同じじゃないか。
同じ写真ではあるのだが…明らかに映っていてはおかしい物がそこには映っていた。
ジャックの手帳に挟まっていた写真では黒く塗り潰されていた所に…"リクオルが映っている"のだ。
…訳が分からなくなってきた。
この遺体は誰のもの?
ジャック達は…一体誰だ?何者だ?
…写真を落ち着いてもう一度見てみる、よく見ると写真の裏面に何か書いてあるみたいだ。
▶見ろ
見ろ
見ろ
見ろ
震える手で写真の裏面を見る。
そこにはこんな文字が書かれていた。
"i filium meum&i filia mea"
確か訳すと…
"私の愛しい息子&私の愛しい娘"
え…?
「……。」
リクオルがため息をつく。
次の瞬間、目の前が真っ暗になった。