「さて!まずは何からお話しましょうか!」
半年という、長いような短いような期間を経てようやく夫婦を連れ戻せたダーズンローズ達。
ビアンカがダーズンローズ達と色々お話したい、と言うので夫婦とお話する事になった。
一応、夫婦の事は知っているつもりなのだが改めて自己紹介から始める。
「もう知ってると思うけど、私はビアンカ!ビアンカ・フィリサティ!アーテルのお嫁さんです!」
ビアンカが自己紹介しながらアーテルの腕を組み、アーテルは突然の出来事にしどろもどろになりながら自己紹介する。
「えっ…あっ…僕はアーテル・フィリサティ…ビアンカの旦那やらせてもらってるかな…うん…。宜しく…?」
自己紹介が終わると、ビアンカが待ってました!とばかりに口を開く。
「さっ!次は貴方達の番!自己紹介が終わったら〜…人間になった貴方達の事、旅の思い出…良ければ私達に教えてほしいわ!」
自分達は軽く自己紹介した後、皆で旅の思い出を語り合い楽しい時間を過ごせた。
そして、話の最中にある事に気が付いた。
この旅が終わってから今後どうしていくのか、自分達のこれからの事を夫婦に改めて話さないといけない事に気が付いた。
…そう、場合によっては夫婦や仲間達とお別れになるのだ。
勿論、悲しくないと言えば嘘になるけど旅や出会いに別れは付き物だとよく言うだろう。
寂しいけど旅が終わりを迎える今、残された選択はこれだけ。
自分はこの世界に"残る"のか、"残らない"のか。
そして、薔薇に"戻る"か、"戻らない"のか。
…どうしようか?残って夫婦と一緒に過ごすか、残らず新しい目標を立てて旅をするか。
それとも、薔薇に戻って朽ちていくまで自然に身を委ねるか。
…いや、もう少し、もう少しだけ時間があるんだ、よく考えて決めよう。
もし、もし許されるなら"あの子"と一緒に…なんて。
視点…カメリア
とうとうこの日が来ちゃった。
そう、今日は父さんと母さんに僕達のこれからを打ち明ける日だ。
父さんと母さんはどうして僕達に呼ばれたのか分かっていないようで、二人で顔を合わせて首を傾げていた。
「…えっと…何か僕達に用かな…?あ、依頼金なら僕達が代わりに払ったよ?」
そういえばこれって元はと言えば依頼だったんだよね、いくらお金がかかったんだろうな…って違う、違う。
今は依頼金の事は置いといて、僕のこれからを父さんと母さんに話をするんだ。
「ううん、違うよ。…父さん、母さん。大事な話があるんだ。」
真剣な眼差しで父さんと母さんを見つめると、母さんは優しそうな目で僕を見つめる。
「えぇ、なぁに?」
母さんにそっと頭を撫でられながら、意を決して僕は話を始める。
…そう、この世界を離れて新しい世界に向かって旅をすると言う事。
僕は愛情を司る桃薔薇だから、旅に出て沢山の愛を知りたい事。
色んな愛を知ってもっと、もっと成長したい事。
僕がこれからやりたい事全部、全部父さんと母さんに話した。
僕の話を聞いた父さんと母さんはとても驚いていた。
「え!?この世界から離れて旅をするの!?そう、寂しくなるわね…。」
母さんが寂しそうな目で僕を見つめている。
その反面、父さんはとても慌てている。
多分、父さんがそこまで慌てている理由は…。
「君、確か15歳とか言っていたよね…大丈夫?そんな小さな子が旅をするなんて危ないんじゃないか…?」
確かに今の僕は見た目の年齢は15歳だ。
人間でいう15歳は中学3年生、もしくは高校1年生だったよね。
子供の僕が1人で旅なんて何があるか分からない、早すぎるんじゃないか、もう少し時期をずらしてみたらどうかなって多分 父さんは言いたいんだろうね。
でもね、父さん 僕は…。
「大丈夫だよ!だって、僕はこの旅で沢山、たーくさん強くなったし、なんて言ったって皆と協力しながらだけど父さんと母さんを無事に連れ戻せたんだよ!だから大丈夫!それに…。」
僕は自信満々に近くにいたエルピスの腕を組んだ。
「僕は1人じゃないよ!エルピスもいるから大丈夫!…後は使い魔のネコも一応いるし…。」
そう、僕は1人じゃない。
僕の相棒のエルピスと使い魔のネコと一緒に旅をするんだ。
ジャックさん伝いに聞いちゃったんだけど、エルピスはまだ僕達が旅をして間もない頃は父さんと母さんの元に残るって言ってたみたいなんだ。
僕はエルピスの意志を尊重して、ネコと一緒に旅に出ようと思っていたんだけどエルピスもこの旅で考えがだんだん変わっていったみたいなんだよね。
実を言うとね、僕も正直ついてくると思わなかったからエルピスが付いてくるって言った時は驚いちゃった。
返事は勿論OKだよ!だって、僕が誰よりも信頼しているエルピスがついてきてくれるんだもん!
エルピスも リアがいるから大丈夫!と拳を胸に当ててまるで 心配しないで、と言うように父さんを励ましている。
そして"一応"という言葉に聞き捨てならなかったのか、ネコが後ろでぷんぷんしているなぁ。
「ちょっと!一応ってなんデスか、一応っテ!!」
…だって事実じゃないか、構った所でどうせまたおちょくられそうだし今は放っておこう。
「ちょっとー!!無視しないでくださイ!!!」
…あ、そうだそうだ。
旅に出掛ける前にどうしてもやりたい事があったんだ。
僕はネコを無視して、僕達の一部始終を後ろで見ていたジャックさんの所に駆け寄る。
「ねぇねぇジャックさん!僕から最後のお願いがあるんだけど〜、良いかなぁ?」
僕の最後の頼みだもん、ジャックさんならきっと聞いてくれるよね?
「ん?なんだい?」
ジャックさんはいつもと変わらない笑顔で僕を見ている。
「実はね…ちょっと屈んで貰える?」
僕が何をしたいのか、ジャックさんなら多分分かっているだろうけど一応、ね。
「勿論良いよ?」
父さんと母さんにどうしても聞かれたくない内容だからジャックさんに屈んでもらい、コソコソとジャックさんの耳元で話す。
「…なるほど、実に面白いね!依頼として引き受けよう。…他でもない君の頼みだ、お代はタダでいいよ。」
あ、相手が僕じゃなかったらお代取るつもりだったんだ…。
ま、まぁ!便利屋っていうお仕事だもんね!
仕方ないか…でも、何はともあれ!
「わーい!ありがとう、ジャックさん!」
えへへ、これで後は準備をすれば完璧だ!
父さんと母さん、喜んでくれるかなぁ?
僕達の事を見ていたエルピスが、僕とジャックさんの所に駆け寄ってきた。
「えー!?なになにー!?私にも教えて〜〜!!」
ジャックさんはエルピスに僕の聞いてもらうお願いを教えても良いのか顔で合図し、僕は勿論と答えるように頷く。
せっかくだから、エルピスにも手伝って貰いたいしね!
「ふふ、中々面白いと思うよ。」
ジャックさんは、エルピスの耳元でコソコソと内容を伝える。
エルピスは内容を聞くとびっくりしていたけど、同時にワクワクし始めた。
「…えー!楽しそうー!!私も一緒にやりたーい!!」
その言葉を待っていたよ、エルピス。
「良いよ。それじゃあ、僕とジャックさんの3人でやろう!」
「やった〜!」
…でも、まずは何から始めればいいんだろう?
許される時間は今日だけだから、手早く進めないと間に合わないよね?
どうしよう…といった感じでジャックさんに視線を向けると、やれやれといった感じでジャックさんは助言を出してくれた。
「じゃ、まずは買い出しからかな。近くにショッピングモールがあるからそこで材料を揃えよう。」
近くのショッピングモールと言えば、あそこかな?
あそこのショッピングモールは大きいから大抵の物は揃うね!
よし、決まりだ!
「兄さん、ニュロ。ちょっとカメリア君とエルピス君と3人で一緒に出掛けてくるからご夫婦と仲間達の事、見ていてくれないかな。」
オロニさんとニュロさんは、ジャックさんの頼みを了承して僕達を見送ってくれた。
「あら、お安い御用です♪いってらっしゃいませ♡」
「…ん。」
…これでよし!
よーし!父さんと母さんに送るサプライズ大作戦、決行だ!
こうして僕達は必要な材料を揃えに 父さんと母さん、仲間達を残して薔薇庭園を後にした。
_____________________________
「あれがもう数日前かぁ…。」
僕は雲一つない澄み切った青い空を見上げながら、草むらで寝転がっていた。
実はあの後、仲間達から聞いたんだけど仲間達もほとんどがあの世界には残らないで旅に出るつもりだったらしいんだ。
だから、"僕がジャックさんに頼んだお願い"を叶えてもらった翌日に皆とはお別れという形になった。
僕とエルピスは またどこかで会おうね、絶対だよ と仲間達、そして父さんと母さんと約束して、あの世界を後にした。
「…それにしても楽しかったなぁ、父さんと母さんの"2回目の結婚式"。」
僕がジャックさんにお願いした事。
それは、もう一度父さんと母さんの結婚式を見る事なんだ。
薔薇として、ダーズンローズとしてじゃなくて今度は人間としてね。
ジューンブライドが近いから予約がいっぱいで式場は借りれなかったけど、ジャックさんの薔薇庭園で簡単な結婚式を開いたんだ。
だって、せっかく人間になれたんだもん!見たいじゃないか。
人間として、父さんと母さんの"愛情"がどんな物なのかさ。
父さんと母さん、すごく喜んでいたよ。
ベールを被った母さんを見た父さんは終始デレデレしちゃってたな、ふふ…父さんと母さんの"愛情"がどんな物か僕、改めて知れたよ。
3人で計画した結婚式はすごく盛り上がっていたよ。
あ!勿論、ダーズンローズセレモニーもやったよ?
なんて言ったって、僕は元はと言えば薔薇でもあるけど、ダーズンローズでもあるからね!
ただし、今度のダーズンローズは造花なんだ。
でもただのダーズンローズの造花じゃないよ?
なんと、僕達の髪と瞳の色にそっくりなダーズンローズ!
へへ、ジャックさんにお願いして特別に作って貰っちゃった。
これで、父さんと母さんも寂しくないよね!
僕達がどんなに離れていても、これがあればきっとずっと一緒だよね!
…さっきも言ったけど、この結婚式の翌日に仲間達みーんなと僕とエルピスはお別れしたんだ。
…先生、オランジュさん、ハニーベルさん、エムロードさん、フォソルさん、ティア姉、ジェンナさん、スヴァ兄、グレイスさん、セアにぃ、ジャックさん、ニュロさん、オロニさん、そして、父さんと母さん、皆、皆…。
「…また、会えるよね?」
勿論、寂しくないと言えば嘘になるよ?
でも、僕はあの時決めたんだ。
ふふん、色んな愛を知って成長した僕を皆に見てほしいんだ!
だから、それまでは皆とはお別れ。
…大丈夫、きっとまた会えるよ。
なんて、つい数日前の出来事を振り返っていると遠くから聞き慣れた声が聞こえた。
「リアー!何してるのー!?早く早くー!!」
…エルピスだ。
もう休憩はおしまいかぁ。
「んしょっと!ごめん、ごめん!今行くー!」
僕は起き上がり、エルピスの元に急いで走っていく。
そして、エルピスの近くでもう1人聞き慣れた声が聞こえてくる。
…ネコだ。
「ご主人、きっと拾い食いしてお腹壊したんですヨ!全く、情けないデスね〜!」
はぁ?ぜんっぜん違うけど。
この僕が拾い食いだって?ご主人様をバカにしてるのか〜!?
全く、これだから使い魔ときたら…。
「違うから、お前は黙っててくれない?行こう、エルピス。」
ふんっ、とネコを置いてエルピスと手を繋いで旅を再開する。
「酷イ!ちょ、待っテ!!ご主人〜!!」
…ねぇ、皆、聞こえる?
僕達、今はお別れだけどさ。
…また、絶対、ぜーったいどこかで会おうね!
約束だよ?
えへへ…皆、皆、だーいすき。
…
「それじゃあ、そろそろ行くわね。…貴女に会えて、私…本当に良かったわ。」
「…私もですよ、グラティアさん…。さようなら、お元気で。」
「えぇ、貴女も元気でね。また会えたら、その時は…。」
「グラティアさん。」
「なぁに?」
「その言葉はまた会えた時に聞きます。だから、今はお預けにしてくれませんか?」
「…ふふ、貴女らしいわね。えぇ、分かったわ。…じゃあね。」
「…はい。」
…
「…綺麗な青空ですね。」
「あぁ…。」
「…あの、本当に良かったんですか…?私と…その、一緒に旅をする選択をして…。」
「良いんだ、お前を置いていくなんて俺には無理だ。うーん、それにしてもこの旅が終わったら2人でのんびりどこかの街で暮らすのも良いなぁ。いや、新しい旅が始まったばかりで何言ってんだか俺は…。」
「え?それって…。」
「ん?」
「…!!う、うぅ〜…おバカ、おバカ…!!」
「な、なんだ…どうしたんだ急に…??」
「……何でもないです、もう知りません…。」
「え、どうしてだ?ジェンナ、俺は何か気に触る事を言ってしまったのか!?ジェンナ…!!」
「何でもないですから…!!ほら、行きますよ…!!」
…
「よいしょっ…!ふぅ、綺麗になったのです!」
「ハニーちゃ〜ん!こっちも綺麗になったわよ〜!」
「エムロード様!お手伝いありがとうなのです!」
「良いのよ!これくらい朝飯前!さて!次は何をしましょうか!」
「うーん、もうお手入れは終わってしまいましたし…少し休憩するのです!」
「あ、休憩するならパパとママの所へ遊びに行きましょう!お菓子と紅茶を持っていって、4人でお茶したいわ!」
「は、はい!分かったのです!確かお二人は今日はお暇だったはずなので、さっそく準備して伺うのです!」
「やった〜!あ、何かやる事ある?手伝うわ!」
「良いのですか?ありがとうなのです!」
…
「エリュー!あれ見てくれ!身に付けるだけで悪運が消えるチョーカーだそうだ!しかも今ならはめるだけでお金がたんまり舞い込んでくる指輪も付いてくるらしいぞ!」
「貴様は相変わらずだな…。」
「え?何がだ?」
「貴様…!!あれ程!!口を酸っぱくして騙されるなと!!いつも言っているだろうが!!」
「す、すまないエリュー!!わざとじゃないんだ!!」
「はぁ、全く…先が思いやられるな…。」
「でもこうしてエリューと2人だけで旅が出来るのは私はとても嬉、グハァ!!?!!」
「ゴタゴタ戯言を抜かすな、置いていくぞ。」
「え、エリュ〜〜!!!」
…
「…フォソル様、それはなんでしょうか?」
「え?これですか?これはピロシキです!さっきそこの屋台街で買っちゃいました!」
「はぁ…。」
「あ、グレイスさんも食べますか?甘辛い挽肉がパンとマッチしてすっごく美味しいですよ!」
「え、良いんですか?」
「はい!勿論です、どうぞ!」
「ありがとうございます、頂きます。」
「どうですか、どうですか!」
「……ん、すごく美味しいですね!」
「でしょう、でしょう!まだありますから沢山食べて下さい!遠慮は無用です!」
「こ、こんなに食べられませんよ!!フォソル様…!!」
…
「…またしばらくここで顔を見せる事はなさそうだな。」
「…もう化けて出てくるなよ、リクオル。」
「…なんて、墓石に言っても無駄か。もうリクオルは、成仏したんだもんな…。」
「…じゃあ、そろそろ行くよ。またな。」
『ニュロ。』
「え?」
『……。』
「…?」
「…まさか、な。」
…
「やっと、本当の意味で2人きりになれましたね♡」
「そうだね、兄さん。」
「わたくし、お前とやりたい事が沢山あるのですよ♡勿論、お前のやる事にもとことんお付き合い致します♪」
「ふふ、ありがとう。」
「まずは何からしましょうか♡まずは近々開催されるスイーツバイキングを片っ端から攻略したいですね♪それからお前とお菓子を作ってお前と2人だけでティーパーティーしたり…あ!スイーツ巡りの旅も良いですね〜♪迷ってしまいます♡」
「焦らなくても大丈夫だよ。僕、一旦"便利屋"は休業する事にしたからね。時間は沢山ある、ゆっくり1つずつ楽しんでいこうよ。」
「…!…それもそうですね♡では!まずは最近この近くにオープンしたばかりのベーカリーのフルーツサンドを食べに行きましょう♪」
「え、今から?」
「はい♡もたもたしてると売り切れてしまいますよ♪善は急げです♡ほらほら、行きますよ♡」
「…はは、了解。」
…
「皆、行っちゃったね。」
「うん…。」
「ビアンカ、あの子達を引き止めなくて良かったのか?あの子達にジオンモナンで暮らしてもらう選択肢もあっただろうに。」
「良いのよ、アーテル。あの子達は薔薇じゃなくて、意志を持つ人間になったのよ?…引き止める資格なんて私達にはないわ。」
「…そうかぁ。」
「また会えるかしら…?」
「…会えるさ。君が望めば、きっとね。」
「そうよね、ふふ…その時は"新しい家族"も一緒にいると良いわね。」
「そうだね…。」
…
人間になったダーズンローズ達が行方不明の夫婦を探しに旅をするお話はこれでおしまい。
…そんな悲しい顔しないでおくれよ。
大丈夫 きっと、またどこかで巡り会えるさ。
諸君が心から望めば きっとね。
…名残惜しいけどお別れの挨拶といこうか。
ご機嫌よう。
そして…ありがとう。
またどこかで会える日を願って。
_____________________________
別れのダーズンローズ達 終
オリ棒企画"ダーズンローズの花よ舞え" 完